ここで扱う悪魔は西洋のデビル(Devil)ではなく東洋(仏教)のマーラ(Māra)だと思ってください。
悪魔と踊れ|テン(TEN)『Nightwalker』『Performance Film : 10』『Lie With You』感想
テン 1st mini album『TEN』
今月13日にリリースされたテンちゃんのテン 1st mini album『TEN』はこのような構成になっている。
No. | 曲名 | 作詞 | 作曲 | 編曲 |
---|---|---|---|---|
1 | Nightwalker *タイトル曲 |
Adam Seuba, Mathias Neumann Nikolaj Andersen, Svante Furevi Sebastian Axelsson, Hilda Denny |
作詞と同じ | Mathias Neumann, JINBYJIN |
2 | Water | SOFTSERVEBOY | Oliver Frid, Liv Miraldi, Sam DeRosa Cameron Bartolini, Alexander Pavelich, TMM |
Oliver Frid |
3 | Dangerous | Miles Barker, Jordan Anthony Dennis | Rodney Jeffrion Montreal Jr, Miles Barker Jordan Anthony Dennis, Hautboi Rich, Jordain Johnson |
Rodney Jeffrion Montreal Jr p.k.a Fortune |
4 | ON TEN | Justin Starling | Rob Grimaldi, Tima Dee, Ayzha Nyree | Rob Grimaldi |
5 | Shadow | Jiselle, Xydo | Elie Jay Rizk, Xydo | Elie Jay Rizk |
6 | Lie With You | Griff Clawson, Ricky Manning, Alna Hofmeyr | 作詞と同じ | Griff Clawson |
ちなみに私は『Water』が1番好きだけど、どれも良曲揃いで全体的に上質なアルバム。
このうち映像化されているのがタイトル曲の『Nightwalker』、『Water』+『Dangerous』(Performance Film : 10)、そして『Lie With You』である。
「映画」という様式を借りる意図
MV『Nightwalker』を観たとき、やけに映画映画してるなと思った。
私は本業がテミンペンなので、同じくフィルムチックなテミンのMV『Guilty』との比較になってしまうけど、あちらは映画風という体裁をとることで初めて独白するに至った彼の私小説という認識。(直につまびらかにしにくいことでも、物語や冗談話にすることで打ち明けられることってあるよね)
で、対するテンちゃんの『Nightwalker』はそういった意図は見えない、というより映画であることが重要な構成になっている。ちなみに似たような感想を先に公開された『Lie With You』でも抱いた。
カット割りやモンタージュ、明示された起承転結…なんか、もう作り手が「これは映画です」ってシール貼ってるみたいだ、って思ったら、あ、それだってなったのが。
最近公開された一連のテンちゃん映像って全部映画だ。最初に公開された『Lie With You』なんて舞台がドライブインシアターだったし、実は示唆されてたんだ。ってことは『Nightwalker』や『Performance Film : 10』は劇中劇?いや、『Lie With You』もモロ映画だったから全部そうか。
で、その映画の中でテンちゃんは役者として色んな役を演じる、それが彼の言う"多様な側面を表現すること”に繋がってるんだ。
テンは、このアルバムの目標は彼の多様な側面を表現することであり、このアルバムのすべての曲がはっきり異なるスタイルを持っていることを証明できると述べました。
引用:https://www.khaosod.co.th/entertainment/news_8094846#google_vignette
アーティスト テンの本質
ソロデビューの機会にテンちゃんの過去作品を改めて観たんだけど、彼自身の存在感、パフォーマンス(歌もダンスも)そのものがすごく雄弁で多彩なので、演出がかえって邪魔をしてないかと感じてしまうことがあった。
素材が良くて可能性が広いテンちゃん。作り手としてはアレコレやらせてみたいのは理解できる。でもどれも私としてはピンとこないというか、なんでも出来るゆえに彼の本質が掴みにくいと思ってた。
違った。なんでも出来る、型が決まってないこと、それ自体がテンちゃんの本質。
『Performance Film : 10』では水が重要なモチーフとして描かれている。雨、水蒸気、水に濡れた足跡、空のプール…水は状況に応じて姿を変える。その掴みどころのなさ、そして降った雨が蒸発して空にかえりまた雨となって地上に降る、そのサイクルの神秘性。すごくテンちゃんにピッタリのモチーフ見つけてきたなって思った。
同様に役者もそう。彼らは舞台と脚本で如何様にも姿形を変える。
アーティスト テンの本質/もうひとつの貌
で、やっと表題の回収なんだけど。
水も役者も人間の内部に潜んでいて、切っても切り離せないもの。そして東洋の悪魔、マーラ(Māra)もそう。
悪魔はいろいろな姿をとって覚りを開かせまいと襲うのであるが、突き詰めていえば、それは快楽へのいざない(飴)と死の恐怖(鞭)の二つの姿だといわれる。
だから、悪魔たちは、美しい女性の姿をとって「楽しみましょう」といざなうのである。しかし、従わないということになると、次は恐ろしい姿で剣を振りかざし「ここを立ち去れ。さもなくば殺すぞ」と脅すのである。シッダールタは、この悪魔たちの試みにも心動かされることなく、覚りの道へと突き進むのであるが、では、悪魔の正体は何であろうか。
それは、一言でいえば、私たち人間の抜きがたい自分中心の心といっていいであろう。
西洋の悪魔は絶対悪だけど、東洋の悪魔は平たくいうと誰しもが持つ負の心。常人ではこの悪魔を払えないので、うまーく折り合いつけながら生きていくしかない。
で、この点を考慮すると『Nightwalker』の"悪魔”の見え方が変わるし、なぜテーマにおいたのかも納得できる。
などなど、激しく妄想してるんだけど、もうめっちゃ楽しくない1st mini album『TEN』。ほんとにこれそのものが『TEN』だ。